「守りの枝」という名の作品

守りの枝

思い入れのある大事な金柑の枝を刺繍して持ち歩ける作品を作って欲しいというオーダーをいただきました。

ご両親が旅立たれてからご実家へ行かれた折に、金柑の木が心に残っていたそうです。

お話を頂いてからしばらくの間、ご実家へ行ける可能な範囲でその木をゆっくり観察してもらい、その中で刺繍の図案を決めましょうとご提案しました。

そこから5ヶ月余り。新芽が出ていた感動や、白い蕾が付き、星のような花が咲いた喜び、そして艶々の実がなっていた驚き、、。その一つひとつを一緒に共有させて頂きながら、私もイメージが広がり、デザインと図案が決まっていきました。

金柑の写真を見せてもらった時に最初に気づいた事は、まだ柔らかな新芽を守るように包みながら他の葉が成長し増えている事でした。新しく若い生命をそっと守る在り方。ああ、これは家族や実家の存在と一緒だなぁと自然の形に感動して、それが作品の大切なテーマになりました。例え今の場所にご実家や金柑の木がなくなったとしても、この大らかで優しい自然のスピリットが作品にしっかりと息づいて存在し続けてくれますように、そんな祈りがありました。

糸をびっしりと埋め尽くす刺繍ではなく、全体的に空間を残しながらのステッチで、風が通り、陽の光が葉を通すくらいの軽やかさにすることを大切に針を進めました。

刺繍の裏糸もわざと全て見える様にして、葉の木漏れ日やその影を感じられるような気持ちで刺しました。

小さな星の花は踊るように、実の刺繍は笑っているみたいに。

私の手を通して、大いなる自然のスピリット(そしてご両親の愛や金柑の木の思い出)がお客様に伝えたがっているものをそっと形にして縫い続けていたような、本当に尊い制作時間でした。

1人の方へ向けてのオーダーメイドの作品制作は、心にそっと寄り添いながら、新しい世界を開くような感覚です。祈りの手仕事として、私の魂職のように感じます。